キスのその後に
玲子が、圭介と真由の関係に気づいたのは半年程前。
本当に偶然だった。

その日、玲子は職場の仲間と外でランチをすることになった。いつもは休憩時間がバラバラなのだが、たまたまその日はみんなと休憩がかぶったので外出することにしたのだ。

横断歩道を渡りながら信号待ちをしている車を何気なく見ると、圭介と真由が顔を寄せて楽しそうに笑っている光景が目に飛び込んできた。

すかさず顔をそらす。
早足になる。

…どういうこと?

圭介と真由は元々の知り合いではないし、私を介して2、3回しか会ったことがないはず。友達でもなければ、職場が一緒なわけでもない。
もちろん兄妹でもないのだから、同じ車に2人が乗っている理由とは…。

あぁ、そういうこと。

理解するのに3秒もかからなかった。
そして玲子は納得した。

ここ数ヶ月、一緒にいる時でも圭介はずっとスマホを気にしていた。仕事が休みのはずなのに、電話が通じないときも何度かあった。
違和感を感じたこともあったが、玲子は深く考えなかった。

でもまさか、自分の結婚相手と友人がそんな関係になっていたとは。
真由だって結婚を決めた相手がいるというのに。

その日以来、時々玲子は圭介のスマホを確認するようになった。圭介が考えるロック画面のパスワードなど、たかが知れている。

真由と会っていたであろう日の翌日のLINEのやり取りはひどかった。甘い言葉のオンパレード。
よくもまぁ、恥ずかしげもなくこんな言葉を言えるものだと思って呆れた。

その反面、こんな言葉をかけてもらえる真由が羨ましく、妬ましかった。圭介は、自分には決してこのような言葉をかけてくれない。

優しくないとか、愛情がないとかではない。

むしろ圭介は、大きな手でまるごと包み込んでくれるように温かい。いつも穏やかで、玲子を大切に思ってくれていることも十分に伝わってくる。

しかし真由に向けられているような、欲を剥き出しにした愛情表現は一切ない。強引な面も全く見せない。

それが玲子は悔しかった。

私は本当の圭介を知らないのかもしれない…。

突然不安に襲われたり、それが怒りに変わったり、この半年はかなり辛かった。何度も圭介と別れようと思ったが、できなかった。

とてつもなく悔しいが、圭介のことが好きなのだ。
それに真由だって、あと数カ月後には人妻になる。どうせ終わりが来る関係なら、自分が身を引く必要はないと考えた。

だから絶対結婚してやると決めたのだ。
真由との関係を知っていると気づかれてはいけない。
私は、一点の曇りもなく圭介を愛しているのだと思わせておかなければ。

玲子が祭壇に近づくと、圭介が手を差し伸べてきた。その手をそっと掴む。

そう。
今日から私は圭介の妻になるんだから。
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