キスのその後に
目の前では外国人の牧師が、片言の日本語で、愛について人生について説き始めた。玲子はうわの空で、終わりが見えない牧師の言葉を聞いていた。

ガラスの外の空がとても青い。
このまま全部、空に吸い込まれてしまえばいいのに。

「ソレでは指輪の交換と誓いのキスを。」

玲子と圭介は向かい合い、お互いの薬指に指輪をはめた。

圭介が穏やかな表情で見つめてくる。
玲子も軽く微笑んだ。

圭介が玲子の両肩に手を置くと、2人は顔を近づけてキスをした。

優しい唇。

圭介は真由とも、こんなふうにキスをしたんだろうか。
それとも真由とは、もっと激しく貪るようなキスをするんだろうか。

圭介はどんなふうに真由に触れていたのだろう。
2人でどこへ行って、どんな話をしたんだろう。

私は圭介と結婚して、本当に良かったんだろうか。
もし今後もこんなことが起きたら…?
私は圭介を許すことができるんだろうか。

いや、そもそも許したわけではない。受け入れたのだ。
この半年間、必死に気持ちを整理して、受け入れようと決めたのだ。

第一、もう引き返せないでしょ…。

半年間、深く考えないようにしてきた感情に襲われて、玲子は虚しい気持ちになった。同時にふつふつと怒りが込み上げてくる。

真由はどんな気持ちで今、私たちを見ているんだろう。

会場から拍手が沸き上がり2人のキスが終わろうとしたその時、玲子は思いっきり圭介の唇を噛んだ。

ぶちっと気持ちの悪い音がする。

「いっ…て。」
顔を離した圭介が、歪んだ表情で玲子を見る。

皮がめくれてしまったらしく、下唇の端に血が滲んでいた。

側で見守っていたプランナーの木村が慌てて駆け寄ろうとしたが、圭介が小さく片手を上げて、それを制した。

前列の招待客が異変を感じて少しザワついたが、鳴り止まない拍手の音に掻き消される。

「愛してる。」

戸惑いの表情で見つめてくる圭介に、玲子は真顔でそう言った。
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