円満夫婦ではなかったので
(優しくて明るくて気を遣ってるか……笑える)
他者に優しく気遣いが出来るのは恵まれている証だ。経済的に豊かで愛情深い家族がいて、人生になんの不満もないのだろう。別に園香がとくべつ優れた人格と言う訳ではない。
恨みや妬みという感情をただ知らないだけなのだ。
それなのに彼女は、素敵な女性だと褒めたたえられているなんて、おかしいと思う。
幼い頃に母親が出て行き、父親は娘よりも仕事優先。父親がいなくなった後の保護者は親切そうな顔の裏で、考えていたのは自分の世間体だけ。傲慢にも金さえ渡せばよいと思っていた。
希咲だって、優しい人たちに囲まれて苦労を知らず育っていたら、きっと園香のような女性になっていたはずだ。
ただ運がいいだけで、大切にされる女。
気付けば、自分とは一切かかわりがない園香を敵視するようになっていた。
それでも、何かしようなんて一度も考えたことはなかった。
非常に鼻に付く相手だが、瑕疵がない社長令嬢を攻撃するのはリスクがある。
名木沢と結婚して何不自由なく暮らし、趣味の延長の仕事もある。
今の環境をわざわざ壊す必要はないだろう。
しかし、その後も園香の存在は希咲をどうしようもなく苛つかせた。
自分でもなぜここまで彼女が気に障るのか不思議なくらいだった。
不快感からくるストレスを発散したくて、不倫相手と会う機会が増えていた。
何も考えずに遊ぶことで、気分が紛れていたからだ。
けれど、調子に乗り過ぎたのか、相手の妻に不倫がばれた。
不倫相手の妻は正論と綺麗事で希咲を攻撃してくる嫌な女だったため、つい過剰に反撃したら、相手が病んでしまいトラブルになった。
結局、名木沢が慰謝料を払うことで解決したが、希咲は気に入って働いていた美倉空間をクビになってしまった。
なによりも自分が排除された事実が許せず、名木沢の影響力で美倉空間とソラオカ家具に復讐したかったが、どちらも上手くいかずに終わった。
不満を燻らせていたところ、同僚として親しくしていた冨貴川瑞貴が起業し独立すると噂を聞いた。
以前から瑞記が自分に気があることに気づいていた希咲は、絶好のチャンスとばかりに彼に近付き、起業メンバーとなったのだ。
まさか、その後彼が、空岡園香の夫になるなんて思いもせずに。