円満夫婦ではなかったので
瑞記の関心が、園香から希咲に移ったのは明らかだった。

かけがえのない相手、ベストパートナー。

彼は本気でそう思い込み、妻を放って希咲とふたりで行動することに少しも罪悪感を持っていなかった。

希咲は、瑞記が自由に振舞う裏で、園香が辛い思いをしていることに気付いていた。

瑞記が零す愚痴や、しつこく鳴る電話から、彼女がどれほど焦っているのかがよく分かる。

けれどその行動は逆効果で、瑞記は見るからにうんざりしていた。

ますます気持ちが離れるだけなのに、それが分かっていないらしい。

(まあ仕方ないかな。苦労知らずのお嬢様なんだから)

二月になると長く家を空けた瑞記を責めて、ついには希咲との仲を疑う発言をしたそうだ。

実際瑞記と希咲は男女の仲ではないので、瑞記は何ら後ろめたいことはない。

『人を疑ってばかりの妻には失望したよ。僕と希咲の関係を怪我されたようで不快だ!』

瑞記は怒り狂い、それからまたしばらく帰宅しなくなった。

その日はオフィス近くのビジネスホテルに宿泊していたが、おそらく園香は誤解している。

(証拠もないのにヒステリックに責めちゃうなんて、本当に馬鹿だなあ)

彼女がどんな顔をして口惜しがっているのか、どうしても見たくなり家を訪ねた。

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