円満夫婦ではなかったので
(こんなの駄目よ……許せない)
希咲はぎゅっと手を握り締めた。爪が手のひらに食い込み痛むが、それ以上に焦燥感が大きかった。
園香が妬ましい。瑞記を取られたくない。
瑞記が好きな訳ではない。でも自分を一番優先してほしい。そうでなければ気が済まない。
その後、瑞記は結婚してしまったが、希咲は諦めて怒りを治めることも、気持ちを切り替えることもしなかった。
『瑞記、相談があるの』
結婚して一カ月も経っていない新婚の彼を、深刻そうに悩みを打ち明けることで何度も誘い出した。
『夫が、冷たくて……このままだと辛くて耐えられない』
『えっ? そんなことになっていたのか? てっきり夫婦仲はいいのだと……』
『それは表向きだよ。でも実際は違う。私はいつも孤独なの』
悲しそうに訴えると、瑞記は本気にして、希咲に同情してくれた。
仕事ではこれまで以上に熱心に取り組み、瑞記をフォローした。
園香の直接的な悪口は言わないようにした。代わりに、やんわりと園香の態度がおかしいと刷り込んでいく。
更に相談を口実に、瑞記にアプロ―チをし続けた。
もともと瑞記は希咲に好意を持っていた。既婚者だと知って諦めたようだが、再燃するのは簡単だ。
瑞記は希咲を妻よりも大切するようになり、新婚一年目のクリスマスですら、瑞記は希咲が待つ家に帰らなかった。