円満夫婦ではなかったので
母と彬人に付き添われて病院を出る。

駐車場には見覚えのある黒いSUVが停まっていた。

彬人が後部座席のドアを開いて園香を見た。乗れという意味だ。相変わらず言葉が少ない。

「ありがとう」

「ああ」

松葉杖が邪魔になって上手く乗り込めないでいると「大丈夫か」と手助けしてくれる。無愛想だけど、優しさがない訳じゃない。

「ごめんね、迷惑かけて」
「気にするな」

彬人の運転でまずは実家に戻り母を下ろした。園香の部屋と食事の準備をして待っていてくれるそうだ。

それから横浜のマンションに向かう。

おしゃべりな母がいなくなると車内が急に静かになった気がする。

何か話しかけようかと考えながら視線を彷徨わせていると、バックミラー越しに彬人と目が合った。

「大丈夫か?」

「怪我はそこまで酷くないから……彬人は私の記憶のこと聞いてるよね?」

彬人が無言で頷いた。眉間に深く皺が寄っている。

「ここ一年くらいの出来事を覚えてないと聞いた。今でも何も思い出さないのか?」

「うん、早く思い出したいんだけどね。日常生活なんかは何も問題ないんだけど、結婚していたことまで忘れてしまったのはダメージが大きいよ」

彬人はもう園香の方は見ていなくて視線は合わない。でも話を聞いてくれているのはなんとなくわかる。
< 24 / 170 >

この作品をシェア

pagetop