円満夫婦ではなかったので

退院の日。結局瑞記は都合がつかないとのことで迎えには来てくれなかったが、母が彬人を連れて園香の病室にやって来た。

「お母さん?……彬まで」

来なくていいと言ってあったのに。

「思ったよりも元気そうだな」

困惑する園香の前に彬がやって来た。短髪の黒髪に涼し気な切れ長の目元。幼い頃に始めた剣道を社会人になっても続けているせいか、立ち振る舞いに隙が無くきりりとした雰囲気を醸し出している。

園香の記憶ではもう二年近く会っていないことになるが、ほとんど変わっていないように見えた。

「彬……久しぶりだね。来てくれて嬉しいけど、仕事は大丈夫なの?」

「休みをもらった。仕事の調整は出来てるから心配ない」

「そう。ごめんね、迷惑かけて」

「気にするな……荷物はそれだけか?」

彬はそう言いながら、荷物を纏めておいたボストンバッグを掴む。

「うん」

園香は頷きミニバッグを肩に掛けて立ち上がった。
その様子を眺めていた母が、僅かに首を傾げる。

「いつもと雰囲気が違うのね」

園香はシンプルな黒のワンピースを身につけている。

「瑞記に持って来てとお願いした荷物の中にこれがあったの」

彼はクローゼットから適当に持って来たのだろうが、受け取ったときに少し驚いた。
以前の自分は暗い色よりも柔らかな色味が好きだったからだ。ここ一年の間に園香の好みが変わったようだけれど、それにしては母までが知らなかったのには違和感がある。

(結婚してからはあまり実家に帰ってなかったのかな)

細かいことで不明な点が多過ぎる。
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