円満夫婦ではなかったので
「私たちもしっかり説明出来てなかったので奥様の不満は仕方がないことだったんです」
「……」
「ここ半年は以前テレビ番組のインタビューを受けたのがきかっけで様々なお仕事の依頼を頂いていて、場合によっては視察や打合せに遠方に出向く必要があります。私たちしか社員がいませんから当然ふたりで行っていますけど、本当に仕事なのでどうか心配しないでほしいんです」
希咲の話はそれなりに筋が通っているように感じた。にも関わらずすぐに分かりましたと頷けないのはなぜなのだろう。
(何か胸につかえているような……)
嫉妬ではない。だって今は瑞記への恋心を忘れてしまっているのだから。
しばらく考えても、モヤモヤする感覚の正体が掴めなかった。仕方なく別の疑問を口にする。
「あの、かなり忙しいようですけど、従業員を雇わないんですか? 聞いた限りでは経営は順調のようですし、業務拡大と同時に社員を増やしてもいいんじゃないでしょうか」
希咲は一瞬気分を害したように眉を顰めた。しかしすぐに笑顔になる。
「採用はなかなか難しいんです。専門的な仕事なのでそれなりのスキルを持っているのが条件ですし」
「では経理など事務スタッフは?」
「うーん、それも希望する人材はなかなか応募してくれませんね。でも、私たちが出張に出ている間に留守番をしてくれるようにアルバイトを頼むことはありますよ」
「そうなんですか」
「あの、本当に安心してくださいね。私と瑞記の間で何か起こる訳は絶対にないですから。そもそも私は既婚者ですからね」
「えっ……」
園香は思わずポカンと口を開いた。