円満夫婦ではなかったので
夫婦ではいられない

六月中旬。園香は予定よりも少し遅れて夫婦のマンションに住まいを移した。

瑞記には引っ越し日に休めるか分からないと言われていたため、両親が車で送ってくれることになった。

しかしそう瑞記に伝えると彼は急に休みを取ったと言い出して、結局一日中家に居て荷物の運び込みや細々したものの買い出しに付き合ってくれた。

それは妻を心配してと言うより、両親の目が有ったからだろう。瑞記は特に父の反応に神経質になっているように見えた。

結婚しているとは思えないほど自由に振舞っている一方で、人の目を気にする人なのだと意外に感じた。

ただ両親が帰宅した途端に、自室に引きこもってしまった辺りは予想通りだった。


そんな風に、夫婦の生活はややぎくしゃくした形で再スタートを切ったものの、それなりに平和な数日が過ぎていった。

ところが同居三日目の朝食の席で平穏は崩れた。
園香の話を聞いていた瑞記が、突然不快だと言うように顔をしかめたのだ。

「働くってどういうことだよ?」

「どうって、言葉の通りだけど。七月一日から横浜の展示場で働くから」

そう伝えただけなのになぜ不機嫌になるのだろう。

怪訝に感じていると、瑞記は園香を睨みながら、苛立ちを吐き出すように息を吐いた。

「大怪我をして記憶まで無くしてるのに仕事に行くって何を考えてるんだよ?」

瑞記は相当イライラしているようだった。

それまでは園香が用意した朝食を勢いよく食べていたと言うのに、食欲が失せたとでも言うかのように箸を放りなげて、ダイニングチェアーの背もたれに身体を預けている。
< 45 / 165 >

この作品をシェア

pagetop