円満夫婦ではなかったので

瑞記の両親も、ふたりの兄の家庭も、妻はみな家で家庭を守っている。

そんな環境で育った影響か、瑞記も妻には家事に専念して欲しい気持ちがあった。
それが瑞記にとって理想の結婚生活だ。

(園香を働かせているってばれたら、馬鹿にされる)

両親と兄が知ったときの反応を考えると、苛立ちが胸中に広がっていく。

これは失望からくる怒りだ。

園香と結婚したときは、ソラオカ家具店の社長令嬢が妻だなんて素晴らしいと、家族は瑞記を褒めたたえたと言うのに。

(最近のソラオカ家具店はぱっとしないし、園香は勝手な行動ばかりで僕の実家への気遣いがないし、はっきり言って評価が下がって来てる。それに比べて希咲は完璧だよな)

瑞記を幸せにしてくれるのは希咲だけだ。

彼女といると仕事が成功するし、何よりマイナス思考にならずに済む。

(希咲に会いたいな)

笑顔の彼女の顔が浮かび、瑞記は微笑んだ。

とは言え、実際彼女の部屋を訪ねる訳にはいかないと分かってる。

疚しいことは無いとはいえ、瑞記も希咲も既婚だからその辺は弁えなくては。

「……そろそろ寝るか」

あれこれ考えても仕方がない。瑞記はソファから腰を上げベッドに入ろうとした。

そのとき、スマートフォンが振動した。

園香かもしれない。寝ようとしていたところに面倒だと思いながら画面を確認する。

直後、瑞記は固かった表情を和らげた。
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