ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

首の後ろで、カチャカチャと留め金を留めてくれる気配がする。

後ろを向いた方が留めやすかったかも、と申し訳なく思い始めたところで、「もういいぞ」と頭上で声がして、顔を上げた。
必然的に至近距離で見つめ合う恰好になってしまい、ドキリとする。

「……よく似合ってる」

低い美声が言い、大きな手が火照った頬を包み込んだ。

「あ、りがとう……ございます」

「熱いな。ワインのせいか?」
「え、と。たぶん……?」

その眼差しは、見たことのない光を宿して、どこか苦しげにも見えて……憂いを帯びた表情に惹きつけられる。

目が逸らせない。
“好き”って気持ちが、今にも音になって口からあふれ出しそうになってしまう。

片想いだとわかってるのに。
叶わないとわかっているのに。
それでもいいから、伝えたいと思ってしまう。
彼に、この想いを知っていてほしいと――

「っ……」

言いたい、でも言えない。
苦しくて苦しくて、こんな気持ちを抱え続けるのはやっぱり限界だ、と感じた時――


ピカッ!! ドォオオオオン!!!


「キャッ!」
ごく近い距離でひと際大きな雷鳴が轟き、私は悲鳴を上げて彼にしがみついてしまった。

「どっかに落ちたな、今の」
「れ、冷静に言わないでください……」

その後も、ゴロゴロと不穏な音が響く。
これは一刻も早く帰った方がいいのでは、と酔いも吹っ飛ぶ思いで考えていると、キッチンで片づけをしていた永井さんがひょいっと顔をのぞかせた。

「村瀬さん、高速がスリップ事故で通行止めになってるそうですよ。雨もひどいですし、今日はこちらに泊まられたらいかがです?」

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