ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「そうだな、設備は整ってるし……」

え、えぇえ?

「冷蔵庫の中に、今夜の残りですが野菜やパンもありますので、よろしければ明日の朝ご飯にしてください」
「そうさせてもらう。すまないな。永井の帰り道は大丈夫そうか?」

「えぇ、地元なのでご心配なく。では、お休みなさい」

「え、え、あの、お、お休み、なさい……ありがとうございました……」

私は引きつった笑みとともにお辞儀を返すのが精いっぱい。

もしかして……2人きりで泊まるの?
いやいやいや、何緊張してるの、何も起こるはずないでしょ。
そんなのいつものことだもの。

いつもの、……うん。


でも。

ペンダントに指先で触れながら、深呼吸する。

もし彼が、私のことをまだ気に入ってくれているのなら……チャンス、じゃないだろうか。
忙しい彼と次にいつ、こんな風に一緒に夜を過ごせるかわからない。

ビッチの東京花子じゃなく、山内織江として。
最後にもう一度……もう一度だけ、夢を見ちゃいけないかな。

もうこれで、最後にするから。
今度こそ諦めるから、だから――あの夜みたいに誘って……

彼だって、カラダが目当てなら断らないよね?

ペンダントを握り締め、ぐるぐると考えを巡らせていた私。
轟く雷鳴ももう耳に届かず、当然、隣の貴志さんがどんなカオをしてるのか、気づく余裕もなかった。


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