ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
12. 織江side 女子会と香水と嫉妬


「えぇっお泊りしたのに何もなしっ!?」

「し、シーっノリちゃん、声が大きい!」

個室の入口から顔を出してチラッと外を覗くと、外はガヤガヤ騒がしい居酒屋の店内。誰もこっちに注意なんて払ってなくてホッとした。

今日は、久しぶりにノリちゃんと女子会。
鎌倉土産を渡した週明けから、デートの話を聞かせろとずっと矢のような催促を受けていて。
ようやく実現した金曜日の夜、仕事を終えた私たちはアットホームな雰囲気で人気の韓国料理のお店に来ている。

もちろん隠す理由はないし、ちゃんと正直に話した。紫陽花巡りの後雷雨がひどくて急遽泊まることになったけど、何もなかったって。

「何よ、意外と副社長ってヘタレだったのね。まぁ一緒に暮らしてるんだし、何も旅行だからってシなきゃいけないこともないけどさ。でもつまんないなぁ。あ、店員さーん、海鮮チヂミ追加注文よろしくーあ、あと生ビールも!」

忙しく行き来する店員さんを呼び止めてオーダーするノリちゃんを眺めつつ、私は自分の前にあるマッコリのグラスを手の中で揺らした。
「つまんないって、それはちょっと……。私相手にソノ気にならなかっただけじゃない?」

つぶやくように言って白く濁ったお酒へと視線を落とす私の額を、ピンと指が弾く。

「何落ち込んでるの。それだけ大事にしてくれてるってことでしょう。喜んでいいと思うわよ」
「だ、大事に?」

「そうよぉ。だって2人ってまだ正式に付き合ってるわけじゃないんでしょう?」
「う、うん。もちろん」

「だからさ、順番を気にしたんじゃない? どうでもいい女だったらヤリ捨てにしてもいいけど、織江とは“ついで”みたいにヤッちゃうんじゃなくて、ちゃんと両想いになってから、とか」

実はもう早々に関係しちゃってるからな。
順番云々で彼が手を出さない、なんてことは考えられない。

「……まさか、そんなことあるわけないよ」

ただ今更それを口にするわけにもいかず、曖昧に笑うしかない。

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