ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
20. 織江side ヒロインは真実を明かす

その場にいた全員が、キララでさえも、ギョッと一瞬フリーズした。

みんなどんなコメントをすればいいのかわからないんだろう。
微妙な緊張と沈黙の中、私はさらに頭を深く下げる。

「私は貴志さんに相応しくありません。どうか、このお話はなかったことにさせてください」

再度繰り返すとようやく反応があった。豪奢な振袖が動く気配がしたのだ。

「お姉ちゃん、ようやくわかってくれたのね!」
キララが嬉々として叫ぶ。

「そうなんです、お姉ちゃんには未来の社長夫人なんて大役、重すぎて重すぎて。だからあたしが――」
「あなたは黙ってて!」

伏せていた上半身を起こしながら、彼女の言動をたぶん初めて強引に遮った。
そのことが信じられないんだろう。キララは口をパクパク、目を白黒させている。

彼女のことは放っておき、再び私は目の前の3人へと視線を戻す。

「私は……いえ、私たちは(・・・・)、村瀬家の花嫁に相応しくありません。ご辞退させてください」

そう言うなり、両親が面白いくらいに慌てふためき出した。

「な、何を言っとるんだお前はっ!」
「そうですよ! あなたはともかく、キララさんまで巻き込むのは許しませんよ! もう下がりなさいっ」

こうなることは予想していた。そしてその見苦しい光景にドン引きした村瀬家の3人が席を立ち、そのまま見合い話が消えてくれたら、というのが私の目論見だった。

ところがそうはならなかった。

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