ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

言いあう声をどこか他人事のように聞きながら、もつれきった頭の中を整理する。

つまり、今井さんが私を裏切ったってことよね。お金でももらって寝返った……ううん、あるいは最初から塩沢に依頼されて私に近づいた可能性もある。

ずっと私の動きを見張ってて、塩沢に報告してたんだろう。

じゃあ、調べてもらったことはどこまでホントだったの?
不正なリベートはなかった? それとも、少しは真実が含まれていたんだろうか。

私はまんまと騙されたんだ。圧力なんかじゃなく、掲載の予定は最初からなかった――


ぐしゃぐしゃに丸められて座卓の上に転がっているゲラが見える。

いや、ゲラなんかじゃなく、ただのプリントか。
そうよね、プロだったらあんなものいくらだって偽装できるんだろう。

取材がちゃんとした原稿()になったことで、安心していた。まさか今井さんと塩沢が繋がっていたなんて……考えもしなかった。
私の完敗だ。

冷えた指先で、膝の上に小さく爪を立てる。

悔しかった。
両親たちが不正なお金で贅沢三昧をしてることは間違いないのに、もう信じてくれと言えなくなってしまった。
両親も、ここから先は注意深く行動するようになるだろう。
証拠なんか掴ませないように。

せめて、話を聞かせてくれた業者さんたちに、不利益がなければいいけど……。


「だから忠告したんですよ。余計なことをすれば破滅を招くと」

ぼそっと聞こえたのは、塩沢の声だった。
たぶん、近くにいる私にしか聞こえてないだろう、囁くような音量。

悄然と顔をあげれば、塩沢の緩く結ばれた口元が視界に映る。
歪んだそれは、嗤いたくてたまらないのをなんとか耐えているようにも見えた。

「彼氏の浮気程度で懲りておけばよかったものを」

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