ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
21. 織江side ヒーローの献身

貴志さん……?

一体何を言い出すのかと瞬く私を、優しく弧を描いた双眸が見つめる。

「大丈夫だ、わかってるから。織江は、正しいことをしようとしただけなんだよな?」

「え――」

言われた意味を理解して、胸の奥が熱くなる。
それってつまり……私を信じてくれるってこと?

「副社長、どういう意味でしょうか。それは」

蛇のような小さな目が貴志さんを睨んでいる。
予想外の展開に少々イラついているのがここからも見て取れた。

「塩沢、とか言ったか」

ゆっくりとそちらへ向き直った貴志さん。
その眼差しには余分な感情を削ぎ落した鋭さだけがあり、空気がピリリと引き締まった。

「はい、なんでしょう?」

「残念だったな。より魅力的なエサをぶら下げられれば、ああいう連中(・・・・・・)は簡単に寝返る。よく理解しておくべきだった」

「は……?」

怪訝そうに眉を寄せる塩沢へニッと片頬を上げて見せてから、おもむろに貴志さんが座卓の上に置いたのはスマホだった。


「……さて、と。待たせて申し訳なかったな、今井さん?」


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