ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
私が足を向けたのは、フロアの一角にあるガラス張りの休憩室だ。各階にあるこのスペースには、無料のコーヒーマシンやスナックコーナー、ソファやカウンター席まで完備されていて、いつでも誰でも気軽に利用できる。
今日は先客が1人。
「あれ、岡田さん。お疲れ様です、ここにいらっしゃったんですね」
声をかけると、ソファに座っていた細身の男性がタブレットから人懐こそうな顔を上げた。
「あ、山内さんお疲れー。何、僕のこと探してた?」
「はい、ほらリーズチャイナの上海工場の件、先方と話ができたので、その結果をお伝えしようと思って。詳しくはメールしておきましたけど」
「あーあれか、ごめんごめん、助かった。あの人の中国語、訛りが強くて苦手でさ。あとで確認しておくね。視察はいけそう?」
「日程次第っていう感じでしたけど、大丈夫だと思います。先方も実際に見てもらった方がいいって言ってくれてますし――……」
話しながら棚からカップを取り出してホットコーヒーを淹れ、スティックタイプの粉末ミルクと低カロリーシュガーを落とす。もちろん、自分の分だけ。
来たばかりの頃は、みんなにお茶かコーヒーか聞いてまわってたっけ。
飲みたいときに飲むから気を遣わなくていい、ってノリちゃんに教えてもらって、会社が違うとこうも違うのかと目からウロコだった。
一星では、入社年度の若い女性社員がフロア全員分のお茶を淹れるって、暗黙の了解があったから。
なのにここでは、役職付きの人も自分でコーヒーを淹れに来る。
そう、副社長ですら。
ほんのり甘めのコーヒーを一口味わい、私は2年前に思いをはせた。