ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
あの時は、偶然副社長が1人きりでコーヒーを淹れているところに来合せちゃって……めちゃくちゃ緊張したなぁ。
彼の後にしようと順番を待っていたら、「うわっ」って小さな声がして。
――ウソだろ、いつの間に入れてたんだよ。
情けなさそうに眉を下げて、カップを見下ろしていた。
どうやらブラックを飲もうと思ったのに、無意識に砂糖とミルクを入れていたみたい。
相当疲れているようだった。
無理もない。
今でこそ彼の能力は誰もが認めるところではあるものの、副社長に就任したてのその頃は逆風の真っただ中。“雇われ副社長”、なんて陰口をたたかれながら、それでも腐ることなく奮闘していた時だから。
――あの、よろしければそれ、私がいただきます。副社長は新しいのを注いでください。
とっさに、声をかけていた。
――え、それは申し訳ないよ。
――気にしないでください。私甘党なので。
――……ほんとにいいのか? 助かる。ありがとう山内さん。
いつもの隙の無い表情を崩し、くしゃっと照れたように笑う彼に、心臓を打ち抜かれるというのはこういうことかと思った。
今振り返ればあれはきっと、一目惚れだったんだろうけど。
当時は私も佐々木君と別れてどん底にいた時だったし、なかなか自分の気持ちに素直になれなくて言い訳ばかりしてたな。
同じようなタイミングで、同じように新天地で頑張ってる副社長に出会ったから、親近感を覚えてるだけよ、とか。あんなイケメンに会ったのが初めてだから、芸能人に熱を上げてるのと同じだ、とか。
でも、同じフロアで働くうち、彼のわかりにくい優しさや懐の深さだったり、クールに装った下の泥臭い努力だったり、意外な素顔を垣間見て、もう言い訳が追い付かないくらい惹かれてしまい……結局、恋してるって認めてしまった。
それでもまさか、あんな大胆な真似をしちゃうなんてあの頃は想像もしてなかったけど。