ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

それから私は、音をたてないように注意しつつ散らばった下着や服を苦労して探し出すと、手早く身に着けた。
そしてそこを出ようとして……ようやく自分がどれほどゴージャスな部屋に連れ込まれていたのかを知った。
控え目なダウンライトに浮かび上がったムーディーな室内は、名のあるブランドの作品に違いない光沢ある家具で統一され、素人目にも相当お金がかかっていることがわかる。

シェルリーズホテル――七つ星評価の最高級ホテル――のバーで飲んでいたから、シェルリーズの部屋になるかもとは考えたけど。
おそらく、ここはその中でもかなりハイグレードのスイートルームだ。

ベッドルームを出るとリビングルームがあり、さらに向こうには別のゲストルームやキッチンまでチラ見える。まるで豪華なタワマンの一室のよう。
一体私の部屋いくつ分だろうかと、考えるだけで恐ろしい。

中に入るなりキスされて夢中で応えていたから、何も見えてなかったんだな、と数時間前を思い出して一人赤面してしまう。

まさかこんないい部屋を取ってくれるなんて、申し訳なかったな。

駅裏のラブホとかでも全然よかったのに、とは思うものの。
彼は大企業の副社長、そんなところで遊びとはいえ女を抱くなんてもってのほかだろう。

とても足りないとは思うけど、少しでも置いていくべき? と宿泊代について束の間逡巡し、いやいやと首を振った。
遊び慣れてる女(ビッチ)”なら、きっと奢られて当然って思うはず。
ここでお金を払ったら、逆に怪しまれてしまうかもしれない。
このまま出て行こう。

リビングを横切り廊下に通じるドアの前で振り返って、もう一度、隣の部屋で寝ているであろうその人へ深く深く頭を下げた。

本当に、ごめんなさい。
そして、ありがとう。


私はホテルから逃げ出した。

夢の時間は――もう終わりだ。

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