雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
「彼女は今、妻子ある男と交際しているそうだ。それで写真を撮られて困っていると打ち明けられた」

妻子ある男……。
つまり不倫中って事?

「幸い撮られた写真は男の顔がわかるものじゃなかったし、その男と俺は背格好が似ているらしい」

「だから課長がその男の代わりに佐伯リカコの恋人として《《これから》》写真を撮られるって事ですか?」

「まあ、そういう事だ。妻子ある男と不倫しているよりも、元夫を恋人にした方がマシらしい。俺は独身だからね」

「だから私とつき合えないと」

課長が悲し気に微笑んだ。

「中島さんを巻き込みたくないんだ。俺と交際していたら、中島さんも記者に追いかけられる事になる。きっと佐伯リカコと俺を取り合っているなんて面白おかしく記事にされるだろう」

「課長は交換条件を飲んだんですか?」

「飲んだよ。ただし12月までと期限をつけて。彼女に12月までに男と別れる事を約束させた。俺は彼女が男と別れるまでのカモフラージュ用の恋人だ」
「どうしてそんな事を? 課長だって記者に追いかけ回される事になるんですよ。ある事ない事、記事にされるんですよ。記事が出たら会社に居づらくなりますよ。いいんですか?」
「仕方ない」
「どうして? 私の為ですか? 私が阿久津に札幌に飛ばされるから」
「男だったら好きな子を守りたくなるんだ」
「課長のバカ。またキザな事言って。勝手に守らないで下さい。私は自分の身ぐらい守れます」

私のせいで課長に無理をさせていると思ったらやるせなくて堪らない。

恋人のふりだなんて。
やっと課長と両想いになれたのに。

「課長が佐伯リカコの恋人になるなんて嫌です。それならまだ札幌に行った方がましです」

課長に抱きしめられる。

「ごめん。奈々ちゃん。12月までだから。それまで俺を待っていて欲しい」
「佐伯リカコの恋人なんて嫌だ」
「奈々ちゃん、いい子だから」
「嫌だ……」

課長にしがみついて泣いた。
12月まででも、課長が他の誰かのものになるのは耐えられない。
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