雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
森さんは私たちに昨夜、何があったか静かな声で話してくれた。

佐伯リカコの妊娠が発覚したのは9月の最初で、その時は妊娠二ヶ月。そして、この一ヶ月、相手の男と子どもをどうするか話し合いをしていたが、結論は出せないでいたらしい。

男は人気俳優で、家庭があって、妻とは別れられない状況にいる。しかし、佐伯リカコと別れる事も出来ず、男から心中を言い出したそうだ。悲観的になっていた佐伯リカコは男の提案に乗り、男が持って来た睡眠薬を男と一緒に大量に飲んで、昨夜病院に運ばれる騒ぎとなったよう。

二人を発見したのは森さんで、逢引き用に使っていた秘密のマンションで倒れている所を発見したそうだ。

男の方も、意識が戻っているそうで、今、身内が来ているらしい。

衝撃的な内容に久保田も私もため息しか出て来なかった。

「つまり、雨宮課長は、交際相手の男を隠す為に佐伯リカコさんの恋人役をしていたんですか?」

久保田の質問に拓海さんが頷いた。

「子どもをどうするか結論を出すまでの時間が欲しいと言われて、仕方なく引き受けたんだ」

そんな深刻な事情があったなんて想像もしなかった。佐伯リカコが拓海さんとよりを戻す為に恋人のふりを頼んだのだと、勘繰ってしまった事が恥ずかしい。

崖っぷちにいる人間に助けを求められて、拓海さんは無視できる人じゃない。拓海さんが引き受けたのは当然だ。それに佐伯リカコも信用できる人間は限られているだろうし、元夫の拓海さんしか頼める人がいなかったんだ。

嫉妬していた自分が情けない。
誰にも言えない秘密を抱えて拓海さんはきっと苦しかったはず。それなのに私は佐伯リカコに嫉妬して拓海さんを責めてしまった。

昨日、拓海さんを引き止めるべきではなかった。
佐伯リカコの所に行かせてあげれば良かった。

拓海さんが駆けつけていれば、心中を止められたかもしれない。赤ちゃんが流れてしまう事もなかったかもしれない。

どうしよう。私のせいだ……。
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