雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
会場が暗くなり上映が始まる。
私も拓海さんも、演台のそばの椅子に座って静かに映画を観た。

「フラワームーンの願い」を観るのは今日で二度目。
佐伯リカコから慰謝料として映画のフィルムを譲ってもらい、宣伝部にある設備を借りて一人で鑑賞した。

最初は拓海さんにプレゼントしようと思ってした事だったけど、作品を見て、これは世に出さなければいけない素晴らしい作品だと思った。

一人でも多くの人に映画を届けたい。
胸が熱くなる感動を届けたい。

そんな想いが溢れて、今回の事を企画した。

創立記念パーティーはお披露目の場として最高の場所だった。2000人の映画関係者の前で上映すれば話題になる事は想像できた。そうなれば注目され、映画館で上映される事になるかもしれない。一般のお客さんに届けられるかもしれない。

再び映画館で上映される所を拓海さんに見せたい。あなたの書いた作品はこんなに素晴らしいんだよ。みんなに愛されるべき作品なんだよっていう所を見せたい。

77分の物語が終わって、切ないピアノの曲をBGMにエンドロールが流れると、自然と拍手が湧いた。

拓海さんは眼鏡を取って、涙を拭うような仕草をしていた。
それから、私を見て、「ありがとう」と言ってくれた。その瞬間、この企画を立てて良かったと実感する。
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