雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】

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三月最初の土曜日。

東京駅から11:36発の新幹線に乗って、およそ二時間で仙台駅に到着。
天気は快晴。水彩絵の具で描いたような水色の空は目にするだけで、頬が緩んじゃう。気温も15度あって暖かいし、今日は最高の旅行日和。

仙台って東京より寒い所だと思っていたから、重装備で来てしまった。
ダウンジャケットはいらなかったかも。それにカーディガンの下のセーターも厚着し過ぎたかな。セーターの下がほんのり汗ばんでる。

「奈々ちゃん、上着、後ろに置こうか?」
チャコールグレーのチェスターコートを脱ぐ雨宮課長に訊かれる。
仙台駅からはレンタカーのお店に寄って、シルバーのノートを借りて、今、乗り込む所だ。

「あ、自分で置きます」
白ダウンを脱いで、お気に入りのオリーブ色のカーディガン姿になる。
後部座席の、雨宮課長が置いたコートの隣にダウンを畳んでおいた。白とグレーのコートが並んでいるのを見るだけで、嬉しくなるのはなんでだろう?

「コンビニ寄ろうか。飲み物とかお菓子、欲しいでしょ?」
助手席に座った私に運転席から柔らかな声がかかる。
私がプレゼントしたらしい、明るいグレーのクールネックのセーターを着た雨宮課長が素敵でにやけそうになった。

「確かにお菓子欲しいかも。新幹線でお弁当食べたけど、甘い物が食べたいです」甘えるように焦げ茶色のセルフレームの眼鏡をかけた雨宮課長を見ると、「それでこそ奈々ちゃんだ」と言われて、くすぐったい気持ちになった。

「まずはコンビニに行くね」と言って、雨宮課長が車を発車させる。鼻筋の通った横顔をちらちらと見ながら、ウキウキしてくる。
カーラジオからは明るい曲調のJポップが流れて来て、なんかデートみたい。

口ずさんでいたら、雨宮課長も運転しながらサビの部分をハミングしてくれる。低音の雨宮課長の声と、高音の私の声が混ざって、恋人っぽい。

あの事を聞いてから、この三日、沈んでいたけど、今日は楽しい。今は胸の痛くなる話はしないでおこう。
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