雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
まだ残暑の残る九月二週目。

いつものように地下鉄の日比谷駅で降りて、日比谷公園の前を通り、30階建てのオフィスビルに入った。社員証のICチップを自動改札のようなゲートにかざしてエレベーターホールまで進む。

このビルにはウエストシネマズ(うちの会社)の他に財閥系の大手不動産会社や、クレジットカード会社、ネットサービス関連会社、法律事務所などのオフィスが入っていた。

その為、朝の8時半から9時付近のエレベーターホールは混雑している。どの会社もだいたい9時スタートなのかもしれない。

以前は混雑を避ける為に始業時間より1時間早い8時に出社していたけど、総務部に異動してからはあえて混雑するこの時間帯に出勤している。

理由は雨宮課長を避ける為。

雨宮課長が8時出勤なのは宣伝部にいた頃から知っていた。前はよくエレベーターホールで遭遇したけど、8時半出勤にしてからは一度も朝のエレベーターホールで雨宮課長と会う事はない。出社時に会わなければ、ほぼ雨宮課長と関わらずに一日を終える事ができる。

今、雨宮課長に会うのは非常に気まずい。
あんなお花畑全開の夢を毎日見てしまうなんてヤバすぎる。

本人を目の前にしたら夢と現実の区別がつかなくなって、おバカな発言をしてしまいそうで恐ろしい。

もうこれ以上、雨宮課長には恥ずかしい姿を晒したくない。

だから避け続けている訳だけど……。

これは結構苦しい。

何が苦しいって、(なま)雨宮課長を見られない事だ。好きな人の顔は見たくて堪らなくなる事を雨宮課長に恋をして知った。

雨宮課長に会いたい。だけど、会えない。

この矛盾した気持ちをどうすればいいのだろう。
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