真夏の夜の夢子ちゃん
電話を切って、ふぅっと息を吐いた。気がつくと雨は止んでいて、空には星が一つ光っているのが見える。

「雨、止んだね。」
洸平が振り向くと、そこにいるはずの女の子がいない。

「…え?」

慌てて辺りを見回すが、人の気配はない。
暗い道の向こう側を見ても、誰もいない。

「おーいっ。」

少し大きな声を出してみたが、返事はないし物音もしない。

なんで?一人で行っちゃったの?
また何も言わずに…。

追いかけたいけれど、どこへ行ったかわからないので追いかけられない。

洸平は左手に持った下駄を見つめた。

これ、どうしよう…。

傘もバス停に戻そうと思ってたのに。あの子、持って行っちゃったな。

「俺の靴も…。」

けっこうお気に入りのスニーカーだった。好きなスポーツブランドの限定モデルだったし。

まぁ、少しきつくなってきていたから新しいの買ってもらうつもりではいたけど…。
母さんに何て言おう。

そんなことを考えながら、洸平は歩いてきた道を引き返した。

祖父の家にいる間、あの女の子に会えたのはこの日だけで、また名前と連絡先を聞かなかったことを後悔した。
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