真夏の夜の夢子ちゃん

洸平 15歳

中学に入学すると、洸平はテニス部に入った。特にテニスが好きとか興味があるとかそういうことではなく、ただ単にバスケやバレーのような団体行動が苦手だったからだ。

しかし、テニス部は意外とハードだった。

そもそも顧問の教師が熱血すぎて、毎日の部活は日が沈むまで終わらないのが当たり前。土日もほぼ毎週部活。
お盆も正月も練習の日々だった。

おかげで洸平は、県大会でベスト8には入ることができた。
そして中学3年生になり、夏休みを前にして晴れて引退となったのだ。

2年間、夏休みはずっとテニス漬けだったので、祖父の家に行くのはかなり久しぶりだ。
母親の実家へ帰省することをこんなに待ち望んでいる中3男子など、日本中を探しても他にはいないのではないか。

それもこれも、あの子のせいだ。

祖父の家に行けなかった2年間、時折あの子のことを思い出しては、まるで狐につままれたような気分になった。

あの子と一緒に過ごした時間が夢のように思える。本当に現実に起きたことだったのだろうか。

未だにあの子の名前も連絡先も、住んでいる場所も知らない。いつも急にいなくなって、次に会う約束すらできない。

1年に一度。しかも今までに2回しか会ったことがないというのに…。
どういうわけか、気になりすぎて仕方がない。

あの艷やかな長い黒髪や、洸平を見つめる大きな目。白い肌。
そしてピンク色のぷっくりとした唇。
それらを思い出すだけで、洸平の体は熱くなる。

そしてあの日の、あの子の浴衣の胸元に雨粒が吸い込まれていく光景は、今でもはっきりと思い出せる。

一度だけ、あの子のことを想って自慰行為をしようとしたことがある。

全血液が、下半身へと集中していくような感覚。

自分の手で自分のモノを触ってみると、大きく硬くなっていて驚いた。さらに、あの子の唇に触れて、あの子の浴衣を脱がせて、あの子の肌に触っている場面を想像すると、もっと硬くなった。

何度か扱いてみると、言いようのない高揚感に襲われる。しかし、その後すぐに怖くなって、行為をやめた。

あの子をそんなことの対象にするなんて、とてつもない大罪を犯したように思えたからだ。

本当に…。
思春期の男子というのは、想像力が豊かすぎて困る。
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