大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
出会ってしまった


***


日中は暑いくらいの陽気となった十月上旬のある日。
国際展示場で開かれていたのは、大手自動車メーカーの沖田(おきた)自動車工業が発表した若い世代向けの新車のお披露目会だ。
新型車の発表としてはやや遅めの時期だが、クリスマスシーズンの発売に向けて国内外からも注目を集めていた。
ステージ上の新車披露にあわせて展示ブースでは新しい機能が説明されており、マスコミ各社も取材合戦を繰り広げている。

沖田瞬は会場の一角で記者たちの質問に答えていた。
社長の息子として営業を任されている立場としては精一杯愛想よくしているつもりだが、元々こういう場所は不得手だ。
メカについての説明はこなせるが、笑顔を作るのは苦手なのだ。
だが、この車を作り上げるまでに大勢の社員が苦労してきてたのは誰よりも理解している。
だからこそ、売り込みにも力が入った。

(俺にできることは、広告塔になること)

そう割り切って、瞬はマスコミからの取材を受けていた。


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