大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
デート未満


「さて、車を預けるかな」

おしゃべりしていたら、あっという間に横浜の中華街近くに着いていた。
瞬がどこか駐車場を探しているのかと思ったら、とあるガソリンスタンドに入っていった。

(たく)!」

瞬が窓を開けて声をかけると、驚いたように店の制服姿の男性が走り寄ってきた。

「瞬じゃないか! こんな時間にどうした?」
「車、ちょっと頼めるか?」
「いいよ。いつものところへ入れてくれ」

拓と呼ばれた男性は瞬と同じくらいの年頃で、少し小柄だが短い髪ときりっとした眉が印象的だった。

「降りて待ってて」

詩織を降ろすと、瞬は整備工場の方に車を回した。
目立つ車だからその辺の駐車場に置きっぱなしにはできないのだろう。

「珍しいなあ」

詩織をチラチラ見ながら、拓という男性が話しかけてきた。

「あの、こんばんは」

瞬とどういう関係の人物かわからないので、とりあえず詩織は軽く会釈をした。

「はじめまして、菅原拓斗(すがわらたくと)です」
「はじめまして、近藤詩織です」

拓斗はニコニコと愛想がいい。詩織に対しても気安い調子だ。

「瞬は滅多にあの車で街に出てこないんですよ。女の子と一緒なんて、初めてかもしれませんね」
「あの車?」
「瞬がなにより大切にしているロッソ・コルサ! いつもはごくありふれたセダンに乗ってますからね」

初めて聞く言葉に、詩織は首を傾げる。

「ロッソ?」
「イタリアの言葉で、レーシングレッドて言えばいいのかなあ。あの色スゴイでしょ」
「あれって、有名な車なんですか?」

詩織の反応に、拓斗は爆笑した。

「サイコーだね、君!」





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