大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
あやまち


週に一回、瞬の時間が取れる日時が決まったらT・ケアに連絡が入る。
それにあわせて詩織が瞬の家に出向き、恭介の決めたメニューでのトレーニングをする。
例外的な対応だが、瞬の体調コントロールには欠かせないようだ。
忙しい瞬だからこそ、事故の後遺症は気になっていたのだろう。
仕事の関係で夕方か夜になることが多かったが、きっちりと時間調整をしてトレーニングに向き合っている。

恭介が言っていた通り、瞬の住む家にはトレーニングルームがあった。
そこには新しくマシンを購入していたし、広さも十分だ。
レーサーだっただけに体力作りや筋トレは馴染みがあるのだろう。
恭介がたてたメニューも楽にこなしていくし、それどころかあっという間に次のメニューに進めるくらいのハイペースだ。

「無理しないでくださいね。ひとりでやりすぎないように」

おそらく、詩織がいない日にも自主トレーニングをしているのだろう。
瞬はひとりで身体を鍛えることには慣れているし、黙々とメニューを進めてしまいそうだ。

詩織が心配していた通り、十二月になろうかという頃に瞬の動きに違和感を感じた。
トレーニングのために瞬の家を訪ねたら、ほんの少し姿勢がおかしいのだ。

「何日か前に無理なトレーニングしましたか?」

瞬はムスッとした顔になる。

「わかるのか?」

「背中、張ってませんか?」

詩織の問いに、瞬はコクリと頷いた。

「チョッとだけだ。精神的に疲れた日には、いい汗をかきたいと思って筋トレをやり過ぎた」

今日は無理をさせられないと思った詩織は、マッサージだけすることにした。
揉んだり押したりして筋肉を傷めないよう、指のはらや手のひらで温めて血行をよくするのだ。

「じゃあ、そこのマットにうつぶせになってください」

瞬はなにが始まるのか怪訝そうな顔をしたが、詩織の指示通りに横になった。





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