GIFT
【21時過ぎになるとになると看護婦さんが見廻りに来ちゃうから、時間がないよっ】

【僕達には守ってくれる能力者がいるから大丈夫だよ】

【その能力者…今はいないみたいよ】

【えっ…さっきまで守ってくれてたのに…】

【茉奈がいるから近づけないんだよ。近づくと私の能力で正体を見破られる恐れがあるからね】

【そうなんだ…なら急がないと見廻りの看護婦さんが来ちゃうよね】

「葵さん、これ…」

僕は“木の箱”の蓋を開けると、葵さんと顔を見合わせた。

「私がやります」

「葵さん、大丈夫?」

「大丈夫です。やれます」

葵さんは、注射器と液体が入ったプラスチック容器を手にすると、容器に入った液体を注射器で吸いあげた。

「いきます…」

「お願いします」

【茉奈ちゃん、少しだけ我慢してね】

【うん…】

そして葵さんは、茉奈ちゃんの腕を掴むと注射器の針を刺して薬を注入した。

「終わりました」

「よかった…‥葵さん、ここに入れて」

僕は、使い終えた注射器を“木の箱”の中に入れるように葵さんの目の前に差し出した。

すると注射器を戻そうとする葵さんの手はブルブルと震えていた。

葵さん、本当は怖かったんだ…。

自分も怖かったのに、怖がる僕の気持ちを察して自主的にやってくれた…。

【茉奈ちゃん、痛くなかった?】

【葵おねえちゃん、ありがとう。全然痛くなかったよ。それより何か…体がすごい熱い。燃える様に熱いの…】

【茉奈ちゃん、大丈夫?】

【だっ‥大丈夫だよ。きっと薬が悪い病気をやっつけてくれてるんだよね。だから頑張って我慢する…】

【茉奈ちゃん、頑張って】

葵さんは声をかけながら、茉奈ちゃんの頭を何度も撫でてあげていた。

【ありがとう。それよりも、時間がないから早く行って】

【茉奈ちゃん、頑張るんだよ】

【明日また来るから…絶対に治るから…お姉ちゃんを信じて】

【うっ‥うん…】

そして集中治療室から出ると正面玄関に向かって思い切り走った。

その間、数名の看護婦さんとすれ違った。

でも、誰一人として僕たちの存在に気付いた人はいなかった。

どこかに、先程の能力者が隠れているに違いない。
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