離婚前提から 始まる恋
「うん、君のコーヒーはやっぱり美味いね」
「ありがとうございます」

それはきっと私の腕がいいのではなく、豆が良いのと入れるたびに一杯ずつミルで挽くコーヒーが美味しいだけだと思うけれど、言わないでおこう。

「そう言えば、お父さんのご当選おめでとう」
「ありがとうございます」
お世話になったのに、私はまだお礼を言っていなかった。

「疲れてない?」
「はい、大丈夫です。色々とご尽力いただきありがとうございました」

全てが三朝家のお陰と言うつもりは無いけれど、父の圧勝は三朝家の後押しがあったからこそなのは間違いない。その点は感謝しないといけないと思う。

「東京と地元の往復で疲れただろうから、今日は休んでもよかったのに」
「そんな・・・」

きっと、無理せず休みなさいって言ってもらったのだと思う。
でも、いなくても大丈夫だと言われたような気になるのは勘繰りすぎかな。

「昨日は勇人も行っていたんだろ?」
「ええ、忙しいのに時間を作ってくれました」
「娘婿なんだから、当然だよ」

普段、私は旧姓である若狭の名前のまま仕事をしている。
この会社で三朝を名乗れば、嫌でも「三朝家の方ですか?」と聞かれることになるし、そうなったときに説明するのが面倒だから。
もちろん隠すようなことではないけれど、わざわざ知らせることでもない。そう思っている。
だからなのかはわからないけれど、尊人さんも私のことは「若狭さん」と呼び、人前で家や勇人のことを持ち出すことはしない。
話すのはこうして二人になった時だけ。

「無理せずに、辛かったらすぐに言うんだよ」
「はい」

フフフ。
さすが兄弟、勇人と同じようなことを言っている。
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