離婚前提から 始まる恋
「花音っ」
ノックもせず、医務室のドアを開けると同時に名前を呼んだ。

車で5分ほどの距離とは言え、ここまで来るのに20分ほどかかった。
勝手知ったるMISASAの本社ビルだけに迷うことはなかったが、駐車場からの距離がこんなに長く感じられたことは初めてだ。

「静かにしろ。今はまだ眠っている」
冷静に切り返す兄貴が、俺を待っていた。

三朝財閥の本社であるMISASAの専務を務める兄貴は俺以上に忙しいはず。
こんなところにいる時間も惜しいはずなのに、花音のせいで申し訳ない。
そう思って一歩進み出ようとした時、

「お前がしっかり見ていなくてどうするんだよ」
あきらかに怒りを含んだ言葉が振ってきた。

「倒れるくらいに具合が悪いなら、仕事に来させるなよ」
どうやら兄貴もかなり機嫌が悪いらしい。
そして怒りの矛先は、花音に無理をさせた俺に向かっている。

「花音ちゃんは頑張り屋だから、お前が止めないと無理するってわかったことだろう」

「すまなかった。兄貴にも迷惑かけた」
俺は素直に頭を下げた。

言いたいことがないわけではないが、兄貴の怒りももっともに思えて反論する気にはならない。
頑張り屋の花音の性格を考えれば、ある程度予見できた展開なのに・・・
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