離婚前提から 始まる恋
人の噂なんて信じるつもりは無いけれど、里佳子さんのことが気にならないと言えば嘘になる。
誰よりも勇人の側にいて、仕事上でもパートナーとまで言われる里佳子さんを、当然勇人だって信頼しているに違いない。
そこには男女の違いなんてものは関係ないのかもしれない。
でもねえ・・・
私の中のわだかまりが消えることはない。

「夕方早い時間に帰宅するために副社長がどれだけ仕事を詰め込んでいるか、奥様にわかりますか?」

静かに淡々と、それでも挑んでくる口調に、私は言葉が出なかった。

「お昼も仕事をしながらとるためにコンビニのおにぎりかサンドイッチばかりですし、休憩もとらずに会議を詰め込んでいます」
「そんな・・・」
そんなことになっていたなんて、知らなかった。

「もちろん奥様が望んだこととは思っておりません。しかし、現実問題としてギリギリなんです」
「・・・ごめんなさい」
それ以外の言葉が見つからない。

里佳子さんが意地悪で言っているのなら文句の一つでも言い返すことができる。
でも、彼女の言っているのはただの事実で、この場合悪いのはすべて私。

「副社長が倒れる前に、何とかしてください。お願いします」
そう言って里佳子さんの電話は切れた。

***
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