離婚前提から 始まる恋
***

「もしもし、田口です」
「あ、はい」

毎日昼過ぎにかかってくる、私の体調を確認する電話。
もちろん普段なら勇人が自分の携帯でかけてくるけれど、忙しい時には里佳子さんがかわりにかけてくる時もある。
今日もそうだった。

「副社長が会議で抜けられませんので、代わりにかけております。奥様、お加減はいかがですか?」
「ええ、変わりありません」
「承知しました。副社長にもそのように伝えます」
「お願いします」

当たり障りなく答えながらも、私の気持ちは落ち着かない。
だって、私はもうすっかり元気だし、こんな小学生の健康観察のような電話に意味があるとは思えない。

「里佳子さん、わざわざお電話いただかなくても私はすっかり回復しておりますので」
勇人にもそうお伝えくださいと言おうとしたのに、
「そういうことは直接おっしゃって下さい。こちらとしても仕事の手をとられて困っておりますので」
「それは・・・申し訳ありません」

どうやら里佳子さんは怒っているのだと、この時になって気が付いた。
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