離婚前提から 始まる恋
「すっごいですね」
マンションの前までやって来て、心底驚いたように建物を見上げる拓馬君。

「そう、ね」
さすがに否定するのもいやらしいかと頷いた。

「旦那さん、お金持ちなんですね」
「・・・」

世間から見れば勇人はお金持ちの御曹司。
贅沢でいい生活をしているように見えるのかもしれないけれど、その分背負っているものも大きいし煩わしさだって半端じゃない。
でも拓馬君にそんなことを言ってもねと、私は黙った。

「花音さんは、幸せですか?」
黙ってしまった私の反応をどう理解したのか、拓馬君が歩みを止めて私を見下ろしている。

「もちろん、幸せよ」
「その割には辛そうですね」
「それは・・・」

勇人や里佳子さんに対して不信感がないと言えば嘘になるけれど、私は勇人が好きだし、尊敬もしている。
たとえ一方通行の思いでも、今勇人の近くにいられることが幸せだと思っている。

「僕だったら、花音さんにそんな辛そうな顔はさせないのに」
「え、・・・」
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