とある会社の色んな恋



今日も太陽みたいにまぶしくて、
よく見えない。

「毎度お手数ですが、
受け取りのサインを頂けますでしょうか」

金髪に切れ長の目。
ピアスだらけの耳に
チェーンのようなネックレス。

最初見た時は、
飲食関係の人には
珍しい身なりだと思ったけれど、
今はそんなこと
ちっとも気にならない。


私はボールペンを握りしめ、
立ち上がる。
イメトレは散々したんだ。大丈夫。
でも、足が進まない。

「ご苦労様です」
「いつもサイン頼んですみません。
ありがとうございます!」
彼が柿川係長に言った。


ボールペンをしまって、
腰を下ろす。

毎日毎日、同じ調子。
今日こそは私がサインをするんだ!
って決心して半年が経った。


でも、サインできたことは一度もない。

柿川係長から弁当を受け取ると、
いつも通り、私はしばらく
弁当箱に両手を乗せる。

よく考えたら気持ち悪い。
彼もこの箱を触ったんだ、
とか想像してるんだから。


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