プラトニック ラブ

思い出



「紗南が羨ましい」



菜乃花は軽く瞼を伏せポツリと呟く。
紗南は予想外の言葉を受け取ると、驚いた表情で疑問をぶつけた。



「セイくんと別れたのに?」

「うん。実際2人がどんな恋愛をしていたか、私にはよくわからなかったけど…。さっきはセイくんの気持ちがビシビシ伝わってきたから、お互い本気で想い合ってたんだなって思った」



実際に騒動を目の当たりにした菜乃花は、2人の恋愛の奥深さがより一層伝わっていた。



「気持ちが繋がっていても障害ばかりがつきまとうし、我慢ばかりで寂しい想いもしてきた。自由にデートは出来ないし、マネージャーには嫌われるし、スマホは勝手に解約されちゃうし、写真の一枚すら撮れなかったよ」

「えっ……。じゃあ、最終的には2人の思い出が1つも残らなかったって事?」



すると、紗南は目を閉じて首を横に振り、握り拳をそっと胸に当てた。



「ううん、ここに思い出が沢山詰まってるよ」

「紗南……」


「思い出っていうのは目に見えるものだけじゃない。一度目に別れた6年前も今も、大事な思い出は胸の中に刻まれている。…だから、今はそれで充分じゃないかって」



厳しい現実を知られたくなくて、無理に作り笑顔をした。
でも、そんな思いとは裏腹に涙が零れてくる。




菜乃花は、唇を震わせてる様子からすると、紗南の心の中は既に限界に達してるのではないかと思った。

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