エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 ネクタイを緩めながら、清貴が部屋の電子錠を解錠した。ピッという音とともに扉を開けて中に入る。

 フカフカの絨毯を踏みながら中に入ると、間接照明でリラックスで切る雰囲気で疲れが和らぐ。

(さて、気付いてくれるかな)

 先に中に入っていく清貴の後を追う。すると彼はテーブルの上においてあるボックスに気がついた。

「ケーキ?」

「うん。私からのお祝い」

 清貴が菜摘の誕生日にケーキを買って以来、夫婦の間でなにか祝い事があるごとに買ってきているパティスリーのケーキの箱だったのですぐに気が付いたようだ。

「疲れてるのに、悪いな」

 ジャケットをソファに放り投げた清貴が、嬉しそうにケーキの箱を開ける。清貴が好きなモンブランのホールケーキだ。

「おぉ、すごい。うまそう……ん?」

 彼が目を止めているのは、ケーキの上にあるメッセージプレートだ。

【Congratulation!Baby is coming】

 チョコレートのプレートに白い文字で書かれている。

「え、どういうことだ?」

 戸惑う彼がゆっくりと菜摘の方を振り向く。彼の視線はまだ大きくなっていない菜摘のお腹へ向けられている。

 菜摘はそっとそこに手を触れた。

「私たち、パパとママになるの」

「本当に? 菜摘、嘘じゃないんだな」

 菜摘が頷くと清貴はここがホテルの一室だということも忘れ「やった、やったぞ」と快哉を叫んだ。

 そして菜摘を抱きしめる。

 表情で、声で、体中で、菜摘に宿った生命を喜んでいる。菜摘は思わず目頭が熱くなり、気が付けばぼろぼろと涙を流していた。

 手を緩めた彼の目にも、涙が浮かんでいる。

 あれから菜摘はずっと治療と体質改善に励んでいた。病院には清貴も付き合い彼にも問題がないか検査を受けたりもしてくれた。

 そして生理が来るたびに落ち込む菜摘を、清貴は根気強く慰めた。

 ふたりでずっと望んでいた子どもが、菜摘の中で育っているのだ。

「私、ずっと清貴の赤ちゃんが欲しかった。大学生だったときもいつかそういう日がきたらうれしいと思っていたし、結婚を申し込まれたときも清貴の赤ちゃんなら、たとえ私が愛されえていなくても生みたいと思った。それくらいずっとずっと清貴の子どもを産むことを夢見ていたの」

「菜摘……ありがとう」
< 111 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop