エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
第二章 ごめんなさいはバニラアイスで
第二章 ごめんなさいはバニラアイスで



「本日はお日柄も良く」なんて言葉から始まりそうな新緑のまぶしい五月。

 菜摘は持っているワンピースの中で一番まともなものを身に着けて、清貴の迎えを待っていた。これからふたりで区役所に婚姻届けを出しに行くことになっている。

 傍には賢哉の恋人である桃子(ももこ)がいる。

「我ながら上手にできたわ」

「桃ちゃんありがとう。こんなに綺麗にしてくれて」

 今日が入籍の日だと知った美容師の桃子はヘアメイクを買って出てくれたのだ。

 髪は華やかなハーフアップにして、メイクもいつもよりもしっかりと施している。けれど菜摘の元来の肌の透明感を生かした清楚なもので、さすがプロの技だと菜摘は感心した。

「このくらい、いいわよ。せっかくの記念日なんだし」

「そう……だね」

 賢哉を兄のように慕うと同時に、その恋人は菜摘にとって姉のような存在だった。清貴との過去の話も知っている。

 だからこそ今日の菜摘の浮かない顔を見て、心配していた。

「本当にいいの? このまま結婚して。きっと断ったって賢哉も怒らないよ」

 最後の最後にもう一度菜摘の意志を確認しようと、桃子が尋ねる。

「なに、急に。心配しないで。よく考えて決めたことだから」

 実際には清貴の言葉に揺さぶられ、その場で返事をしてしまった。

 しかしあれから何度もやめた方がいい、恋心が残っている状態でこんな形だけの結婚をしたら傷つくと頭ではわかっていても、次の瞬間には清貴の隣にいることを選んでいた。
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