エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「え、本当に?」

 色めきだつ彼女たちの話を聞きながら、もしかしてと思う。

(まさかね、まちあわせは駅前だもの)

 菜摘は頭の中に思い浮かんだ可能性を打ち消して、エントランスを急ぎ足で歩く。しかし出入口の自動ドアの先にいる人物を見て驚いて駆けだした。

「清貴?」

「菜摘、おつかれさま」

 特別笑顔をというわけではないのだが、遠巻きに見ていた女性たちが彼が動きを見せたことでどよめいたのを感じた。視線が菜摘にも向けられて居心地が悪い。

「ど、どうしたの? こんなところで。待ち合わせは駅前だったでしょう?」

「あぁ、早く着いたから迎えに来たんだ。それにどんなところで働いているか把握しておくべきだろう」

(あぁ、そういうことね)

 突然現れた清貴に動揺したものの、彼の意図することがすぐにわかった。どこで働いているのか口頭で伝えただけだったので確認しにきたのだ。もし菜摘に何かあったときに、対応するのは夫である彼なのだから。

「わざわざありがとう」

「いや、親父たちが車をだしてくれた。行こう」

「うん」

 目と鼻の先に止まっている黒光りする高級車を目にして、少し躊躇したがこんなところで時間をかけていては、ご両親を待たせてしまう。

 車に乗るとその豪華さのせいか、また緊張がよみがえってきて表情も体も固くなる。

「緊張しているのか?」

 清貴は手元のタブレットに視線を向けたまま尋ねた。

「うん……お会いするの二回目だし」

「昔も会ってるだろう」

「それは……そうだけど」

 学生時代も菜摘のことをかわいがってくれた清貴の両親。今回ふたりが結婚すると報告に行った際も手放しで喜んでくれた。

 ふたりが七年前菜摘のワガママで別れたと言うことを承知した上での歓迎にご両親の懐の深さに感謝した。

「別に家族との食事だ。そんなに気を張らなくていい。そのうち慣れるさ」

「そうだといいんだけど」

(今日はきっと食事の味がわからないだろうな)

 緊張したままあれこれ考えていると、あっという間に清貴の両親の住む家に到着した。自動車用の門を抜け、玄関先の車止めに到着する。

「おかえりなさいませ、清貴さま。菜摘さま」

「ただいま」

 運転手が扉をあけると、中年の女性が出迎えてくれた。菜摘はあわててしまってうまく声がでずに、彼の言葉に合わせて会釈をした。
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