エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 緊張がピークに達している菜摘の手を取り、清貴が歩き出した。どきっとしてされるがままになって歩き出す。

 すると彼が耳元に顔を寄せてきて小声で話をする。

「手ぐらいしっかり握り返してないと、俺たちのことバレるぞ」

「う、うん」

 とっさに彼の手を握り返した。すると彼もまたぎゅっと強く菜摘の手を握る。過去に何度もつないだ大きな手のひら。伝わってくる体温は昔と変わない。それなのに胸がドキドキと高鳴ってしまう。

 緊張とドキドキで胸が苦しい。そんな菜摘を両親があたたかく迎えてくれた。

「いらっしゃい、菜摘さん」

 清貴の父、秀夫(ひでお)と母、祥子(しょうこ)が笑顔で温かく迎えてくれた。

「さあ、こっちに来て」

 祥子は菜摘の手を引いてダイニングの椅子に座らせた。

「今日は久しぶりに腕によりをかけて作ったのよ。菜摘さんに食べてもらいたくて」

「あの、私手伝います」

 立ち上がりかけた菜摘の肩を、証拠が押さえてもう一度座らせた。

「ダメよ、今日は菜摘さんはお客様なんだから。座って男どもの相手をして。お父さんもずっと話をしたいって言ってたんだから」

「でも……」

 こういうときの手伝いは買ってでもするべきだ。

「菜摘、ああ言ってるんだから気にせず座っていればいい」

 清貴にまでそう言われてしまうと、従うしかなかった。

「では、次来たときはお手伝いさせてください」

「うれしいわ」

 菜摘の言葉に笑みを浮かべた祥子は、鼻歌交じりにキッチンの方へ向かい、しばらくすると家政婦と一緒に料理を運んできた。広いダイニングテーブルはあっという間にいっぱいになる。

「母さん、張り切りすぎじゃないのか?」

 清貴は若干呆れ気味だが、祥子は秀夫の隣に座りながら不満げに漏らした。

「これでも厳選したのよ。作れなかったのはまた次の機会に」

「菜摘、覚悟しとけよ。この人達はまた俺らを呼びつけるつもりだ」

「清貴は嫌なら来なくてもいいのよ。菜摘さんだけで」

 ツンと顎をあげて不満げな様子を見せる祥子は、年上の女性なのにすごくかわいらしく見える。

「ダメだ。こんなところ菜摘だけで来させるわけないだろう」

「まぁまぁ、せっかくの食事が覚めてしまう。食べようか」

 秀夫の仲裁が入り、食事がはじまった。
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