エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 両親は菜摘に気を使い、あれこれと話題を振ってくれる。言葉の節々から歓迎しているという気持ちが伝わってきて、優しさに胸がいっぱいになる。

 食事も終盤に差し掛かったころ、菜摘は祥子と一緒にデザートを準備しにキッチンに向かった。

「菜摘さん、どのくらい食べる。甘いものはお好き?」

「大好きです。少しでいいって言うつもりだったんですけど、大きめに切ってもらっていいですか?」

「あら、もちろんよ。そうやって、ちゃんと自分の意見を言ってちょうだいね。大歓迎よ」

 祥子は素直な菜摘を受け入れてくれた。

 フルーツのタルトを綺麗にカットする祥子の話に耳を傾ける。

「菜摘さんが、清貴と結婚してくれて本当にうれしいの。あの子気持ちを表現するのが下手でしょう。それに男だからか変なプライドもあるし。面倒なのよ」

 悪口をいっているようで、表情は柔らかい。彼のことを心配しているというのが伝わってくる。

「だから、本当に好きな人と結ばれてほっとしているの」

「お母さん……」

 自分たちが愛し合って結婚したわけではない。しかし誤解を解くわけにもいかず頑張ってごまかすように笑みを浮かべるしかできない。

「あらいいわぁ。もっと呼んで〝お母さん〟って。早くにお母さまを亡くされたって聞いて、わたくしでは代わりにならないと思うけれど、たくさん甘えてね」

 祥子の優しい言葉に、胸がキリキリと痛む。

(私はこんなに優しい言葉をかけてもらえるような人間じゃないのに)

 うつむいて唇を噛んだ。

「菜摘ちゃん?」

「あ、いえ。あの今度、彼の好きな料理のレシピ教えてもらってもいいですか? お母さん」

「もちろん、大歓迎よ」

 優しく微笑む祥子に顔向けできない。なんとか笑顔を作って、切り分けたケーキをワゴンに乗せてダイニングに持っていく。
 その間、和利と清貴は仕事の話をしていた。

「誠治(せいじ)がまた面倒なことを言い出してきている。対応はお前に任せる。いとこだからって甘い顔を見せていると跡取りの座を奪われるぞ」

「はい。しかし俺が今までアイツに甘い顔なんてしたことないのは、お父さんもご存じでしょう?」

「たしかにそうだ」

 和利はワインを傾けながら、満足そうに笑っている。

 文脈から誠治と言っているのが、清貴と後継者争いをしているいとこのことだとすぐにわかった。
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