エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 注文したアイスティがテーブルに置かれると、このときを待っていたかのように澪が口を開いた。

「あなたの事、調べさせてもらったわ。あなたひどいわね」

 見下すような笑みに、菜摘の表情が凍りつく。初対面といってもいいくらいの相手にこんなことを言われたことは今までなかった。

 菜摘がこわばった表情を見せたことで、澪は彼女をさげすむ言葉を続ける。

「家庭環境も最悪、学歴はまぁ清貴くんと同じ大学を卒業しているようだけれど、そのあと派遣社員だなんて。それに今見させてもらったけれど、容姿もぱっとしないのね。貧相って言葉がこんなにピッタリな人はじめてみたわ」

 口元にハンカチを当てて、クスクスと声を上げて笑う。見かけは美しい人にも関わらず、人を傷つけようとする醜悪さがにじみ出ていた。

 菜摘は彼女に言われる筋合いはないと思いつつも、清貴の周りがこう思うことも付き合っている当初から予想していたので黙ってなんとか耐えた。しかし――

「何そのダサい服」

 吐き捨てるように言われた言葉に、菜摘ははじめて反論の口を開いた。

「これは、清貴が選んでくれたものです。だからその言葉は撤回してください」

 これは入籍した日に、彼がお詫びにといって渡してくれた洋服だ。今日は重要な会議に正社員に交じって参加する予定だったので、きちんと見えるようにこの洋服を身に着けていた。

 しかし菜摘が言い返したのが悪かったのか、それとも清貴が贈った服を身に着けていたことが気に入らなかったのか、澪の態度がどんどん悪くなる。

「私が、本当は私が清貴くんと結婚するはずだったのに! 泥棒」

「ど、泥棒って……私……あっ」

 澪がグラスを持つのが見えた次の瞬間、パシャっと液体が飛び散った。菜摘には何が起こったのか最初理解できなかったが周囲のざわめきとスタッフの「大丈夫ですか?」の声に我に返った。

 清貴にもらった洋服にアイスティがかかって派手に濡れてしまっている。慌ててバッグからハンカチを取り出すと必死になって拭いた。

(ひどい、これから食事に行くのに)

「に、似合わない洋服着てるあなたが悪いのよ。せっかく清貴くんが選んでくれたのにあなたが着ると台無しね」

 澪自身、ここまでやるつもりはなかったのかもしれない。目が泳いでいる。しかし後に引けずに、菜摘にまだ厳しい言葉を投げかけ続ける。
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