エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「こ、これに、懲りたら。さっさと清貴くんと別れて頂戴。あなたなんて彼にふさわしくないわ」

 そう捨て台詞を残すと、澪は立ち上がって店を出て行った。

 取り残された菜摘も変に注目が集まってしまっているので、早くここから出たい。しかし澪の言った「ふさわしくない」という言葉に打ちのめされて動くことができなかった。

 それは菜摘が自分自身心の中で繰り返してきた言葉だったからだ。

(そんなこと……誰よりも自分が一番わかっているもの)

 だからこそ心に深く刺さって、傷ついたのだ。

「お客様、こちらお使いください」

 スタッフから差し出された真っ白いタオルを受け取り礼を伝える。そしてできる限りぬぐった後、時計を見ると清貴と待ち合わせの時間が迫っていた。

 慌てて店を出て待ち合わせの駅の近くに向かおうとする、しかしすぐに一台の車が横付けされてウィドウが降ろされた。

「菜摘、今迎えに――どうした、そのかっこうは」

「あの、えっと。ちょっと汚してしまって」

「いいから、すぐに車に乗って」

「うん。あ、でも汚してしまわないかな?」

「そんなことどうでもいいさ、ほら。早く」

 清貴の勢いに押されて、運転手がドアをあけてくれそのまま清貴の隣に座った。

「なぜ、そんなことに?」

「なんでもないの、ちょっとドジをして――」

 なんとか彼に追及を受けないようにごまかそうとしたときに、窓越しに澪が乗る車が目に入る。その車は道路わきにある駐車場に停車していた。

 後部座席に座った彼女は窓を開けてこちらをじっと睨んでいた。おそらく、清貴の車に菜摘が乗ったのを目撃したに違いない。

 まさかまだ彼女が近くにいると思わなかった菜摘は、言葉を失う。

 そんな彼女の様子に清貴も気がついて視線を追う。

「ん? あの車は、澪か――まさか」

 彼の視線が菜摘の濡れた洋服に移る。

「ち、違うのこれは――」

「菜摘、スマホを出して」

「でも……」

「いいから、早く」

 彼の剣幕におされて素直にスマートフォンを差し出した。着信履歴の番号を見た瞬間に誰のものかわかったようだ。清貴は昔から怖ろしく記憶力がよかった。

「澪が会ったんだな?」

 詰め寄られたけれど、ここで頷てい良いのかわからない。

「隠すなら直接本人に聞くぞ」

 菜摘のスマートフォンの発信ボタンを押そうとするので、慌てて止めた。
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