エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 桃子から送られてきたメッセージには、画像が添付されていた。それはエコーの写真だ。

「小さい……これが赤ちゃんになるんだ」 

 心音が確認されたばかりで、まだ袋のような赤ちゃん。ここから大きくなるなんてなんて神秘的なのだろうか。

 新しい命が大好きな人の元にやどったことは大変喜ばしい。しかしそのことで菜摘は自身がまだ妊娠できないことにここの所胸を痛めている。

 時間はどんどん過ぎて言っている。普通の夫婦ならまだ結婚したばかりだからそこまで気をもむ必要はないだろうが、菜摘と清貴夫婦は違う。

 義父の引退まで二年を切っている。せめて妊娠だけでもという思いが日々菜摘をあせらせた。

 なぜなら彼女が清貴の妻でいる一番の目的はそこにあるのだから。

(検査……してみようかな)

 何もせずに待っていても仕方ない。しかしこれまであまり産婦人科に足を踏み入れたことのない菜摘にとってなかなかに敷居が高い。

 菜摘は桃子に連絡をして、次の検診のときに一緒に産婦人科にいきたいと言って約束を取り付けた。

 そしてそれから三週間ほどたった頃。 

 菜摘は桃子のかかりつけである産婦人科に、桃子と賢哉と一緒に来ていた。ここは不妊治療なども積極的に行っているようで、事前に口コミをしっかり調べてきた菜摘も安心して診察をまかせた。

 そう軽い気持ちで受けた診察だった。しかしその結果が菜摘を地獄へと突き落としたのだ。

「妊娠できない……?」

 検査結果の書いた紙を前に、菜摘は悲壮感漂う表情で医師の話を聞いていた。

「誤解しないでください。できないわけじゃないです。ただ今のこの数値だけで判断すると非常にできづらい体質であるということです」

(そんなの、できないって言われているのと一緒じゃない)

 その後治療方針もきちんと紙に書いてせつめいしてくれた。菜摘がショックで話をきちんと聞いていなかったからかもしれない。

 子供ができて喜んでいる賢哉や桃子には知らせないほうがいいち思いつつ、表情ですべてばれてしまった。桃子は必死になって慰める。

「ほらまだできないって決まったばかりじゃないし、それに子供がいなくても幸せな夫婦はたくさんいるじゃない」

 桃子の言う通りだ。しかしそれは普通の夫婦ならば、の話だ。
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