エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 いつも通り義母の祥子が笑顔で出迎えてくれる。母を早くに亡くした私を気遣い「娘がずっとほしかったの!」と本当に大切にしてくれる。上品だがウィットに富んだ会話をする祥子に菜摘も信頼と尊敬を寄せている。

 今日は義父である秀夫は仕事で留守なので、祥子とふたりでお茶をする予定になっていた。

 加美家のサンルームからは立派な庭が見える。初夏にかけてはバラが楽しめる。今の時期は木々の葉が落ちてしまい少し寂しいが、鉢植えのビオラがそれらを補うように彩を添えていた。

 外は寒いが晴れていてサンルームには太陽の光が燦燦と降り注いでいる。明るい部屋に通されて、祥子お手製のマドレーヌをいただくとざわついていた心が落ち着いた。

「あらあら、本当に素敵。こっちのドレスもいいけど、こっちも似合ってるわぁ。いいわね、いいわね」

 先日撮ったポラロイドの写真と、スマートフォンで撮影した画像を見せると祥子は声をあげてべた褒めした。

「お義母様はどれがいいですか?」

 菜摘が尋ねると人差し指を左右に動かしてチッチッと芝居がかった動きをする。

「こういうのは姑に聞くものじゃないわ。自分が気に入ったものかパートナーが気に入ったものにするべきよ。あくまで主役はふたりなんだから」

「でも、会社関係の方や親戚の方もたくさん見得られると聞いて――」

「菜摘ちゃん、その考えはよくないわ」

「お義母様……」

 優しい口調だが、義母がはっきりと菜摘に伝える。

「あなたは加美家に嫁ぐのではなくて、清貴の妻になるの。これまで加美の家がどうだったかなんて関係ないし、心配してくていいわ。そんなの私が黙らせちゃう」

 うふふとかわいらしく笑う義母だったが、その言葉は力強かった。

「でも私、ただでさえ何の取り柄もなくて」

「あらあら、ダメダメ」

 菜摘のネガティブな言葉を祥子は頭から否定する。

「あの堅物の清貴を落としたんだから、それだけでも偉大なる取り柄よ。それに私もあなたのその気遣いのできるところや、柔らかい雰囲気が大好きなの。マナーや社交なんて後からどうにでもなるから、それよりも清貴と仲良くすることだけ考えなさい」

(仲良くすることだけ……か)
< 72 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop