エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 祥子はかばうようにして、菜摘の前に出た。おそらく先日のパーティのことや、菜摘のところへと澪が押しかけた話などを聞いていて、かばったに違いない。

 その上先ほどよりもずっと沈んだ様子の菜摘を見て心配になった。

 しかしそれも澪には気に入らなかったらしい。

「ちょっとお話をしたかっただけです。また日を改めます」

 笑みを浮かべてはいるが、目は笑っていない。

「菜摘さん、またね。うふふ」

 楽しそうに笑いながら、菜摘の横をすり抜けて帰っていく澪。それを見送った祥子が心配そうに菜摘の顔を覗き込んだ。

「大丈夫? 何かひどいことされていない?」

「……はい。挨拶をしただけなので」

 菜摘にとって重大な秘密を握られたとは口が裂けても言えない。心配する祥子の顔をしっかりと見る。

 もしかするともう会えないかもしれない。短い間だったけれど義母として本当によくしてくれた。感傷的になって思わず涙が滲みそうになる。

「運転手に遅らせるわ。それとも清貴に迎えに来させる?」

「いいえ、どちらも結構です。少し寄りたいところがあるので」

「……わかったわ」

 祥子はそれ以上何も言わなかった。黙って家政婦と共に菜摘を見送ってくれた。

 加美家の門から出た瞬間、菜摘の目から涙が零れ落ちる。

 とぼとぼと歩きながら、悲しい現実を受け入れなくてはならなかった。

 子供ができない可能性が高い以上、自分が彼といるべきではない。そうとなれば行動は早い方がいい。

 ただ最後に思い出が欲しい。自分勝手なわがままだとわかっていても最後に彼との思い出が欲しいのだ。

 泣いている場合ではない。今日は清貴と一緒に食事をする予定になっている。

(最後くらい、楽しんでもいいよね)

 菜摘は涙をぬぐい顔を上げた。気持ちを固めたら時間があまりないことに気が付いた。できるだけ楽しい夜にしたい。菜摘はそう思いすぐにタクシーを拾うと自宅近くのスーパーの前で下車した。

 そこからの菜摘は清貴が帰ってくるまでに完璧を目指した。

 夕食のメニューは彼の好きな、祥子直伝のハンバーグにマカロニサラダ。野菜たっぷりのミネストローネ。

 どれも彼が褒めてくれたものだ。テーブルには近くのベーカリーの焼きたてのバケットを置いて、フラワーショップの店先でみつけた、少しブラウンがかった落ち着いた色味のバラの花を飾った。

 冷蔵庫にはシャンパンも冷えている。
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