エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 結婚してから習い始めたテーブルセッティングが役に立った。レストランのような料理ではないけれど、少しでも見栄えが良くなればいい。

 それから菜摘は部屋で着替えを済ませた。彼が買ってくれたワンピースを身に着け髪をとかして薄く化粧を施した。

 あまり大げさにすると彼が何か勘づくかも知れないのであくまでさりげなくだが、それでも綺麗だと思ってもらえるように身なりを整えた。

 そうこうしているうちにあっという間に清貴が帰って来る時間になった。玄関に人の気配を感じて菜摘は笑顔で彼を出迎えるために玄関に向かう。

「おかえりなさい」

「ただいま……って、菜摘今日はいつもと感じが違うな」

「ふふっ、わかった?」

 一目見て気が付いてもらえてうれしくなって、笑みをこぼした。

(なかなかいいすべりだし。このまま今日は楽しい雰囲気で過ごしたい)

 リビングに入った清貴は、そこでも驚きを見せた。

「なんだ、今日は。何かの記念日だったか?」

「ううん。ただ今日はお休みだったから、少し凝ったことをしたくなっただけなの。でもがんばったから、早く手を洗って座って?」

「ああ、わかったわかった」

 急かす菜摘に苦笑を浮かべた清貴が着替えに自室に向かった。その間菜摘は料理をテーブルに並べてシャンパンを用意した。

 今日だけは何も考えないで、自分の心に素直になって楽しもう。そう決めて菜摘は残りの今日を笑顔で過ごすことを決めた。

 清貴がダイニングに座ると、菜摘の準備した食事を一緒に食べ始める。

「なんだか今日は俺の好きなものばかりだな。いただきます」

「うまくできてるといいんだけど」

 菜摘の心配をよそに、清貴は次々とテーブルの上の食事を平らげていく。気持ちいいくらいの食べっぷりに菜摘も食事をしながら笑顔になる。

「うまいよ。この間より上手になったんじゃないのか?」

「そうかな? そうだといいな」


「次はもっとうまくなってるんじゃないのか?」

 清貴の次という言葉に菜摘の心に小さな痛みが走る。〝次〟という言葉がこんなに残酷なのだと人生で初めて知った。

 彼にハンバーグを作ることはおそらく二度とない。

 好きな人に手料理をふるいそれを食べてもらう。夫婦としてのあたりまえのひとコマがとても貴重に思えた。

「どうかしたのか?」

「ううん、私も食べよう。いただきます」
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