エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 あの日、いきなり現れた清貴を助けたのは彼が本当に困っていると思ったからだ。

 今日も同じように追いかけられていたら、この場をすぐに離れるつもりだった。

「心配してくれたのか?」

「はい、一応」

 清貴は「ははは」と声を上げて笑った。その姿を見て菜摘はきょとんとする。

「まさか、君が俺を守ってくれようとしていたなんて、ちょっとびっくりしただけ」

「あの、差し出がましかったですか?」

 まさかそんな笑われるようなことをしたつもりがなかったので慌てた。

「いや、すごくうれしかった。ありがとう。そうだ、何か飲む?」

「じゃあ、本を貸してもらったお礼に私が!」

 張り切ってふたりでレジに並ぶ。注文を終えて財布を取り出そうとすると清貴がさっさと支払いを済ませてしまった。

「え、私が――」

「いいから。女の子に払わせたなんて噂がたったら困るだろ」

 そう言われると黙って受け入れるしかない。

(有名人は大変なんだな)

 いつも見られている立場だと、一時も気が抜けないのではないか。

 そんなことを考えていると、出来上がったコーヒーとカフェラテを清貴がトレイに乗せて運び始めた。

「何から何まで、ありがとう」

「いいえ、どうぞ」

 もともと座っていた席よりも奥まった人目につきづらい席に座る。すぐ目の前にカフェラテを置かれて並んで座った。

「あの、これ。ありがとうございました」

「役に立った?」

「はい! とても助かりました。長い間おかりしててごめんなさい。二週間って言葉に甘えていました」

「いや、実は本はどうでもよかったんだ」

 清貴が髪をかき上げ、きまり悪そうに視線を逸らした。

「どうでもって、どういうことですか?」

 理解できなくて問いただすと、彼は視線だけ菜摘に向けた。

「十日間、君が一度も連絡をくれなかっただろ。我慢ができなくて俺から連絡した」

「えっ……ごめんなさい。二週間借りられると思ったから――」

「そうじゃなくて、早く会いたかったんだ」

 清貴の言葉の意味がわからずに、目をぱちくりさせる。

「いや、そんなに驚かなくても。迷惑だってことはわかってる」

「いえ、あの!」

 菜摘は誤解してほしくなくて、慌てて否定する。

「め、迷惑じゃない、です! 実は何て連絡すればいいのか迷ってしまって」

 正直に伝えると、清貴の表情が緩む。

「それって俺を意識してたってことでいい?」
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