俺らが親友なのが罪だと言うなら、俺らは死ぬまで一緒に生きる
 ガチャ。
 母さんがドアを開けて、俺の部屋に入ってきた。

「あら、貴方帰ってたの。ただいまくらい言いに来てくれればよかったのに」

(あかね)。元気そうだな」
「ええ。貴方もね」
 父さんと母さんは十秒ほど見つめ合った。
 父さんと母さんは、母さんが俺に暴言を吐いたことがきっかけで離婚をしたからか犬猿の仲の時があったけれど、今はすっかり仲が良い。俺と母さんの仲とは正反対だ。再婚はまだしないつもりみたいだけれど。
 
「もう行くのね、万里。寂しくなるわね」
 俺を抱きしめて、母さんは頭を撫でた。腹の底から嫌悪感が湧いて、思わず母さんの手を振り解いた。

「どうかしたか? 万里」
「どうしたの? 万里」
 父さんと母さんが不思議そうに首を傾げる。

「いや……早く荷造りしないとだから」
 親でいる限り、俺と母さんは永遠に一緒にいないことはできない。そういう意味を込めて、抱きしめられたような気がした。
「そうだな、明日から学校だからな」
「うん」

「私も手伝うわ」
 頼むから手伝わないでくれと言いそうになった。

 部屋の場所や家具の位置を把握されたら、俺が学校に行ったり、友達と遊んだりしている間に、監視カメラを設置されそうで怖いから。私から逃れられないというのは、そういうことをするっていう意味じゃないのか……?

「か、母さんはいいよ。夕飯の買い物しなきゃでしょ?」
「私だけの分ならカップラーメンで平気だから、行かなくて大丈夫よ」
 大丈夫じゃないって言えよ!!
「そんなのダメだよ。ちゃんとしたもの食べないとお腹壊すよ?」
「一日くらい問題ないわよ」
 ああ言えばこう言う。
 いい加減察しろよ! 手伝って欲しくないことを。いや、そう察しているからこそ、引き下がろうとしないのか? 

「いやそうとも限らないだろ。人手なら足りているから、行ってきたらどうだ?」
 よかった、父さんが助け舟を出してくれた。

「え、本当? 手伝わなくて大丈夫?」
「ああ、万里と二人きりで話したいこともあるしな。今日は俺に任せろ」
 俺の背中を叩いて、父さんは笑った。
「そ。じゃあ、そうさせてもらうわね」
 俺と父さんを見てから、母さんは部屋を出て行った。

 気が抜けて、ついため息が溢れた。

「万里、荷物の中に茜に見せたくないものでもあるのか?」
「う、うん」
「もしかして、いじめの証拠か?」

「違うよ」

「さてはエロ本だな?」
 父さんはニヤニヤと、意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「あはは! そんなわけないじゃん。冗談きつい」

「じゃあなんなんだよ?」

「東京に着いたら教えるよ」
 俺は適当に答えをはぐらかして、荷造りを再開した。
 
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